京都大学人文科学研究所要覧2019 人文科学研究のフロンティアが発行されました。

ごあいさつ

京都大学人文科学研究所(人文研)は、本年、創立90周年を迎えます。1929年に外務省が設立した東方文化学院京都研究所(のち東方文化研究所に改称)がはじまりで、1934年に民間団体が設立した独逸文化研究所(のち西洋文化研究所に改称)と1939年に京都帝国大学が設置した人文科学研究所の3研究所が1949年に合併し、人文研が新たに発足しました。この70周年になる新体制のもとでは「世界文化に関する人文科学の総合研究」を目的として、哲学・史学・文学という伝統的な人文学の枠組みを越え、芸術学・人類学・社会学・心理学などの関連分野のほか、法学・経済学などの社会科学、さらには科学史・生態学・情報工学など理系分野の研究者をスタッフに加え、現在は人文学・東方学の2研究部と東アジア人文情報学・現代中国の2附属研究センターから構成されています。

人文研を特色づける共同研究は、学内外の研究者・PD・大学院生たちと連携し、古典文献の会読、フィールド調査、そして相互討論を通じて考察を深める共同研究を毎週や隔週という頻度で開催することにより、数多くの重厚な研究業績を積み重ねてきました。それらは多民族・多文化間の調和ある共生に資する学術的知見として、国内外から高く評価されてきたところです。また、漢籍をはじめとする東洋学関係図書のほか、漢字の起源となった殷代甲骨や中国歴代の石刻拓本、雲岡石窟やガンダーラ仏教遺跡に関する学術調査資料など、質量ともに世界屈指の学術資源を保有し、研究者の共同利用に供してきました。

このような実績をもとに、人文研は2010年より全国共同利用・共同研究拠点の「人文学諸領域の複合的共同研究国際拠点」として文部科学省に認可されました。共同研究の伝統を継承しつつ、学術コミュニティの要望を拠点の運営に反映させるため、学外委員が半数以上を占める運営委員会と共同研究委員会を設置し、いっそうの機能強化に努めています。2018年には課題公募型の共同研究班を拡充し、40歳未満の若手研究者を班長とする研究班と、外国人研究者や客員教員などが主宰する国際研究ミーティングを新設しました。また、東アジア人文情報学研究センターのWebサイトで公開している所蔵石刻拓本資料(拓本文字データベース)は2018年度に2,400万件のアクセスがあり、全国漢籍データベースや東方学デジタル図書館などを含めると、一日あたり平均32万件あまりにおよんでいます。

京都大学は2017年に「指定国立大学法人」に指定され、「特に我が国の人文社会科学を牽引することが期待され」ています。これをうけて人文研は、かねてより推進してきたオープンサイエンスを基礎に、さらに国内外の研究機関とも連携してさまざまな学術情報を共有化し、国際的に活用できる学術資源アーカイブを構築する計画を進めています。これまで以上のご支援とご協力をたまわることができれば幸いです。

2019年6月27日
京都大学人文科学研究所・所長 岡村秀典